大阪地方裁判所 平成3年(ワ)5141号 判決 1993年5月31日
原告
辰巳博昭
ほか一名
被告
阪本昌司
主文
一 被告は、原告辰巳博昭に対し、金一六九四万八七七〇円及びこれに対する昭和六三年九月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告株式会社アルク建築事務所に対し金一三〇万円及びこれに対する平成三年七月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一請求
一 被告は、原告辰巳博昭に対し、金一億一六四七万六六〇〇円及びこれに対する昭和六三年九月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告株式会社アルク建築事務所に対し、金一億一二七八万九三七〇円及びこれに対する平成三年七月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
(一) 日時 昭和六三年九月三〇日午前三時三三分ころ
(二) 場所 大阪市唐物町四丁目一〇番地先交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 被害車 原告辰巳博昭(以下「原告辰巳」という。)運転の普通乗用自動車(なにわ三三せ七一六一、以下「原告車」という。)
(四) 加害車 被告が運転していたラウンドクルーザーと呼ばれる普通貨物自動車(大阪一一は六八八七、以下「被告車」という。)
(五) 事故態様 本件交差点を北から南へ向かい進入した被告車が、同交差点を西から東へ進行中の原告車の左側面に衝突したもの(別紙図面のとおり)
2 傷害の程度及び治療経過
原告辰巳は、本件事故により、頭部外傷、脳挫傷、硬膜外血膣、頭蓋骨骨折、視神経管骨折、外傷性髄液漏、眼球陥没等の傷害を受け、次のとおり病院に入通院し、治療を受けた。
(一) 医療法人日本橋病院
本件事故が生じた昭和六三年九月三〇日、直ちに医療法人日本橋病院に入院し、同日、左視束管開放術、髄液漏修復術の手術を受け、同年一二月六日、視神経管に骨盤骨移植の手術を受け、以後、同月二九日まで九一日間、同病院に入院し、同月三〇日から平成二年三月二六日まで同病院に通院した(実通院日数四六日)。
(二) 宍田眼科
昭和六三年一一月二九日、宍田眼科宍田幸子医師の診察を受け、平成元年四月二五日まで同病院に通院した(実通院日数四日)
3 責任原因
(一) 被告は、被告車の運行供用者であつた。
(二) 被告は、飲酒のうえ、法定速度(時速五〇キロメートル)をはるかに超えた時速一二〇キロメートルで、かつ、赤信号を無視して本件交差点に進入した。
4 原告辰巳に生じた損害
(一) 治療関係費
(1) 入院雑費 一一万八三〇〇円
入院していた九一日間の雑費として一日当たり一三〇〇円、合計一一万八三〇〇円を要した。
(2) 付添費用 二二万五〇〇〇円
右入院中の五〇日間、原告辰巳の両親が付き添つたので、その間、一日当たり四五〇〇円、合計二二万五〇〇〇円の損害が生じた。
(3) 通院交通費 六万五〇〇〇円
前記五〇日間の通院に際し、交通費(往復のタクシー代)として一日当たり一三〇〇円、合計六万五〇〇〇円を要した。
(二) 休業損害 一九〇〇万円
原告辰巳は、原告株式会社アルク建築事務所(以下「原告会社」という。)の代表取締役として同社から月額一〇〇万円の給与を受けていたが、昭和六三年一〇月一日から平成二年三月まで一九か月間給与の支払を受けなかつたので、その間の休業損害は一九〇〇万円となる。
(三) 後遺障害による逸失利益 八〇五六万八六〇〇円
原告辰巳の前記受傷は、平成二年三月二六日、左前頭部陥没、頭蓋骨骨折による異物感、著しい疲労感、左大腿部の感覚鈍麻、骨盤骨の変形、左顔面上部(前頭部下)の約二五センチメートルの瘢痕(著しい醜状障害)、左股部の約五・六センチメートルの瘢痕等の症状が固定した。また、眼に関しては、平成元年四月二五日、宍田医師により、複視、近乱視が残存するとの診断を受けた。
原告辰巳は、一級建築士で、この資格と技術経験を生かして建築の設計、監理の仕事に携わつてきたが、右後遺障害、特に視力に関する複視等の後遺障害により、設計の仕事に著しい障害が生じ、少なくとも三五パーセントの労働能力を喪失したといえる。したがつて、前記収入を基礎に、通常労働可能とされている満六七歳までの三三年間の中間利息をホフマン方式により控除すると、右後遺障害による遺失利益は、次の算式のとおり八〇五六万八六〇〇円となる。
1000000×35÷100×12×19.183=80568600
(四) 慰謝料 六五〇万円
本件受傷のため、二回の手術を施され、約三か月間入院し、その後も通院治療を余儀なくされたものであり、その間の慰謝料は一五〇万円を下らない。
後遺障害による慰謝料は、五〇〇万円を相当とする。
(五) 弁護士費用 一〇〇〇万円
5 原告会社に生じた損害
原告会社は、原告辰巳が昭和六〇年にその資本金を全額出資して設立した会社であつて、建築設計、不動産の売買仲介等を業としているところ、その営業活動は原告辰巳がすべて行い、従業員は事務的な仕事をする女子一人のみで、しかも、右従業員も原告車に同乗していて本件事故により受傷し、原告会社の営業は事実上停止した。
(一) 市村マンシヨン新築工事関係 一六〇万円
原告会社は、昭和六三年四月二〇日、市村房子(以下「市村」という。)から市村マンシヨン設計・監理の委託を受け、その報酬として四四六万七〇〇〇円のの営業収入を得られることとなつていたが、原告辰巳が本件事故に遭遇したため、一級建築士田中楢三(以下「田中建築士」という。)に事故後の設計・監理業務を依頼し、その報酬として一六〇万円の支払を余儀なくされた。
(二) 荒井邸新築工事関係 一七〇万円
原告会社は、昭和六三年六月、荒井正行(以下「荒井」という。)から荒井邸新築工事の設計・管理の委託を受け、その報酬として一八〇万円の営業収入を得られることとなつていたが、原告辰巳が本件事故に遭遇したためその遂行が不能となり、一七〇万円の収益を得られなかつた。
(三) 茨木マンシヨン新築工事関係 二〇〇万円
原告会社は、昭和六二年一一月、茨木武三郎(以下「茨木」という。)から茨木マンシヨン新築工事の設計・監理の委託を受け、その報酬として三〇〇万円の営業収入を得られることとなつていたが、原告辰巳が本件事故に遭遇したためその遂行が不能となり、二〇〇万円の収益を得られなかつた。
(四) 三方五湖別荘新築工事関係 七〇万円
原告会社は、昭和六三年九月ころ、荒井から三方五湖別荘新築工事の設計、監理の委託を受け、七〇万円(設計・監理報酬一〇五万円から外注費三五万円を控除した残額)の営業利益を得られることとなつていたが、原告辰巳が本件事故に遭遇したためその遂行が不能となり、右収益を得られなかつた。
(五) 千里駅前店舗ビル新築工事関係 一四〇万円
原告会社は、昭和六三年九月ころ、荒井から千里駅前店舗ビル新築工事の設計監理の委託を受け、その報酬として一四〇万円の営業収入を得られることとなつていたが、原告辰巳が本件事故に遭遇したためその遂行が不能となり、右収益を得られなかつた。
(六) 豊中市本町五の一三五番四の土地関係 三六一五万二一一二円
原告会社は、豊中市本町五の一三五番四の土地(一六〇・八五平方メートル)を代金三億八九九二万円(仲介手数料一一六九万七六〇〇円)にて購入し、その土地上に原告辰巳の設計・監理により建物を建築し、同土地建物を代金六億一一七七万円で売却する予定であつたが、原告辰巳が本件事故に遭遇したためその遂行が不能となり、建物建築関係費用一億円、土地取得のための借入金利息二〇〇万八〇八八円、課税額合計七一九九万二二〇〇円を控除した残額である三六一五万二一一二円の利益を得られなかつた。
(七) 西宮市神楽町二四番地の土地関係 五九二三万七二五八円
原告会社は、昭和六二年一一月三〇日、西宮市神楽町二四番地の土地(三八八・七四平方メートル)を購入し、その購入代金として西友ファイナンスから一一億円を借り入れ、昭和六三年一〇月ころに同土地を転売する予定となつていたが、原告辰巳が本件事故に遭遇したためその遂行が頓挫し、同月から平成元年六月までの右借入金の利息である五九二三万七二五八円の支出を余儀なくされた。
(八) 弁護士費用 一〇〇〇万円
よつて、原告辰巳は、被告に対し、自賠法三条に基づき、前記損害賠償金合計金一億一六四七万六六〇〇円及びこれに対する本件事故発生日である昭和六三年九月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告会社は、被告に対し、民法七〇九条に基づき、前記損害賠償金合計金一億一二七八万九三七〇円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である平成三年七月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(事故の発生)の事実は、認める。
2 同2(傷害の程度及び治療経過)の事実は、原告辰巳がその主張の各手術を受けたとの点は不知、その余は認める。
3 同3(責任原因)の事実は、信号の表示と被告車の速度の点を除き、認める。
4 同4(原告辰巳に生じた損害)及び5(原告会社に生じた損害)の各事実は、いずれも不知。
三 抗弁
1 過失相殺
原告辰巳は、本件交差点の安全を何ら確認せず、しかも、徐行もせず、制限速度を一〇キロメートル超える時速約五〇キロメートルで本件交差点に進入したものであり、一割程度の過失が認められるから、同割合による過失相殺がされるべきである。
2 損益相殺
被告は、本件事故により生じた損害に関し、原告辰巳に対し、次のとおり計金一五四七万六一七三円を支払つた。
(一) 治療費 金六九九万二八一六円
(二) 付添看護料 金三九八万三三五七円
(三) 休業損害 金四五〇万円
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1(過失相殺)は、争う。
2 抗弁2(損益相殺)の事実は、認める。
理由
一 請求原因1(事故態様を含む事故の発生)及び同3(一)(被告が被告車の運行供用者であつたこと)の各事実は、当事者間に争いがない。
二 請求原因2(傷害の程度及び治療経過)の事実は、原告辰巳がその主張の各手術を受けたことを除き、当事者間に争いがなく、右各手術を受けたことは、甲第一号証の一、三によつてこれを認めることができる。
三 乙第一四、一五、一六、一八、一九、三三、三五、三六、三七号証及び原告辰巳本人尋問の結果によると、次の事実が認められる。
1 被告車の速度は、七〇ないし八〇キロメートル、原告車のそれは、約五〇キロメートル、制限速度は、交差する双方の道路とも四〇キロメートルであつた(原告らは、被告車の速度が一二〇キロメートルであつたと主張するが、この点についての原告辰巳本人の供述は曖昧であつて採用することができず、他に右主張を認めるに足る証拠はない。)。
2 本件交差点に、原告車は対面信号青で、被告車は同赤で進入した。
3 被告は、前日の午後八時半ころから、ビール、冷酒、ウイスキーの水割りを飲み、本件事故後の鑑識の結果、呼気一リツトルにつき〇・四五ミリグラムのアルコールが検知された。
四 甲第五号証の一、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告辰巳は、昭和三〇年五月八日生まれ(本件事故当時三三歳)で、昭和五三年に大学の建築学科を卒業した後、建築事務所に就職し、宅地建物取引主任者、一級建築士等の資格を取得したこと、昭和六〇年七月に資本金三〇〇万円を出資して、建築の設計・監理及び土地の売買とその仲介を業とする原告会社を設立し、土地を購入してその地上に建物を建築し、他に売却する事業などを行つてきたこと、本件事故当時、原告会社の仕事に従事していたのは、原告辰巳のほか事務の仕事をする杉山玲子だけであつたこと、本件事故のため、原告辰巳が前記二のとおり受傷して、入・通院し、右杉山も原告車に同乗していて受傷して入院したので、原告会社の営業は事実上出来ない状態になつたこと、原告辰巳が不十分ながらも仕事に復帰したのは平成元年六月ころであつたことが認められる。
なお、甲第二号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、原告辰巳は、平成元年四月二五日宍田医師により、複視(夕方になると疲れて少し増悪する。)、近乱視との診断を受け、平成二年三月二六日日本橋病院の米田医師により、易疲労性、頭部異物感、左顔面上部に約二五センチメートルの瘢痕、左大腿部に約五・六センチメートルの瘢痕と感覚鈍麻があつて、緩解の見通しはないと診断されたこと、これらの後遺障害に関し、自動車保険料率算定会によつて、自賠法施行令別表の後遺障害等級第一二級一三号(顔面の醜状痕)、同一二級五号(骨盤骨の変形)、同一四級一〇号(頭部神経症状)、同一四級相当(眼の障害)に該当し、結局、併合第一一級に相当すると認定されたことが認められる。
五 以上の事実によれば、本件事故によつて原告辰巳が被つた損害は、次のとおりと認めるのが相当である。
1 入院雑費 一一万八三〇〇円
同原告主張のとおり。
2 通院交通費 六万五〇〇〇円
同原告主張のとおり。
3 休業損害 五〇五万五七五九円
右四認定の事実によると、原告辰巳の本件事故当時の年収は、昭和六三年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・大卒・男子労働者の三〇ないし三四歳の平均賃金である四六七万七七〇〇円を下回らないものと推認されるところ、同原告は、本件事故日である昭和六三年九月三〇日以降平成元年六月三〇日までは休業し、その後は遅くとも症状が固定したと認められる平成二年三月二六日までは労働能力が半減したものと認めるのが相当であるから、これに基づいて同原告の休業損害を算定すると、次の算式のとおり、合計五〇五万五七五九円となる(一円未満切捨、以下同じ)。
4677700÷365×274=3511478
4677700÷365×0.5×241=1544281
原告辰巳は、原告会社から月額一〇〇万円の給与を受けていたと主張し、そのように供述する。また、原告会社の昭和六二年分源泉徴収票(甲第四号証の二)、原告会社の第三期(昭和六二年六月から同六三年五月まで)決算報告書(甲第五号証の三)には、原告辰巳に一二〇〇万円が支払われた旨の、同第四期(昭和六三年六月から同平成元年五月まで)決算報告書(甲第五号証の四)には、同じく四〇〇万円が(昭和六三年六月から同年九月までの分として)支払われた旨の各記載がある。しかしながら、前記認定のとおり原告会社が原告辰巳のいわゆる一人会社であること、原告会社は右第三期に四四〇〇万余円の損失を出し(甲第五号証の三)、四六〇一万二四円の欠損を出したと税務申告をしていること(甲第三号証)に照らすと、右供述及び記載は容易に信用し難いし、仮にそのような額の給与をその時期に受けていたとしても、その後も、同様の額の収入を得たであろうとは考えられないから、原告辰巳の右主張は採用することができない。
4 後遺障害による逸失利益 九七〇万九七一一円
前記四認定の事実によれば、原告辰巳の後遺障害は、同原告の一級建築士としての設計事務等にある程度の支障をもたらすと推察されるところ、視力の点は慣れにより作業に及ぼす支障の程度が低くなることが考えられるから、右後遺障害による労働能力喪失の程度は、遅くとも症状が固定したと認められる平成二年三月以降一〇年間は二〇パーセント、その後は同原告が六七歳に達するまでの二三年間は五パーセントとするのが相当である。したがつて、前記センサスによる年収を基礎に、原告辰巳の逸失利益の現価をホフマン方式により算定すると、次の算式のとおり、合計九七〇万九七一一円となる。
4677700×0.2×(8.5901-0.9523)=7145467
4677700×0.05×(19.5538-8.5901)=2564244
5 慰謝料 五〇〇万円
6 損害小計
以上1ないし5の損害の合計一九九四万八七七〇円が原告辰巳に生じた損害(弁護士費用を除く。)となる。
なお、以上のほかに、原告辰巳は、入院中の五〇日間、同原告の両親が付き添つたから、その費用二二万五〇〇〇円の損害が生じたと主張するが、原告辰巳の入院中は職業付添人が付き添つていた(弁論の全趣旨)ところ、この他に家族の付添いをも必要としたことを認めるに足る証拠がないから、右費用を損害と認めることはできない。
六 前記四認定の事実のほか、次に認定する事実によれば、原告会社は、本件事故により以下の損害を被つたと認めるのが相当である。
1 市村マンシヨン新築工事関係 一〇〇万円
甲第九ないし一四号証、原告辰巳本人尋問の結果によれば、原告会社は、昭和六三年四月二〇日、市村から市村マンシヨンの設計・監理の委託を受け、その報酬は工事総額の三パーセントで、四四六万七〇〇〇円となるはずであつたところ、設計関係の仕事がほぼ終わつた段階で、原告辰巳が本件事故に遇い休業したので、市村の同意を得て、その後の監理業務を田中建築士に依頼し、その報酬として田中建築士に、昭和六三年一一月一五日に七〇万円、平成元年六月二六日に九〇万円を支払つたことが認められ、この合計一六〇万円から原告辰巳がしたならば要したであろう経費を控除して、そのうち一〇〇万円は、本件事故がなければ支払う必要がなかつたものとして原告会社の損害と認める。
2 荒井邸新築工事関係 二〇万円
甲第六号証の一、第一五号証、原告辰巳本人尋問の結果によれば、原告会社は、昭和六三年六月、荒井から荒井邸新築工事の設計・監理の委託を受け、その報酬として一八〇万円を受ける約束をしていたところ、基本プランを作り、設計図面を数枚作成した段階で、原告辰巳が本件事故に遇い休業したので、田中建築士にその後の仕事を引き継がせ、同年一二月二四日、田中建築士に建築確認申請の費用として三五万円を支払つたことが認められ、この三五万円から原告辰巳がしたならば要したであろう経費を控除して、そのうち二〇万円は、本件事故がなければ支払う必要がなかつたものとして原告会社の損害と認める。
原告会社は、この関係で一七〇万円の収益を得ることができなかつたと主張するけれども、原告辰巳本人尋問の結果によれば、建築確認申請の後の作業は、原告辰巳の復帰後に原告会社がすることになつたことが認められるから、その主張のような額の損害は生じなかつたものと考えられる。
3 損害小計
以上1及び2の損害の合計一二〇万円が原告会社に生じた損害(弁護士費用を除く。)となる。
なお、原告会社の主張するその他の項目の損害は、これを認めることができない。
その理由は、以下のとおりである。
(一) 茨木マンシヨン新築工事関係
甲第六号証の二、第一六、一七号証、原告辰巳本人尋問の結果によれば、原告会社は、昭和六二年一一月、茨木から茨木マンシヨン新築工事の設計・監理の委託を受け、その報酬として三〇〇万円を竣工・引渡時に受けることを約束し、そのうち一〇〇万円を建築確認の業務を終えたときに受け取り、原告辰巳の監理のもとに建築工事を進めてきたが、その途中で原告辰巳が本件事故に遇い休業したので、原告会社が関与しないまま、竣工検査、引渡しが行われたことが認められる。この事実によれば、この工事は竣工検査、引渡しが終わつているのであるから、それに対する原告会社の関与の有無に関わらず、原告会社の茨木に対する残二〇〇万円の報酬請求権が発生しなかつたとは断じ難く、原告会社が茨木に対して報酬の残り二〇〇万円を請求していないのは、重要な工程に立ち会わなかつたのに監理の報酬を請求することはできないという原告辰巳の気持ちから出た(原告辰巳本人の供述)ものに過ぎないと考えられるから、右二〇〇万円の収入がなかつたことを原告会社の損害と認めることはできない。
(二) 三方五湖別荘新築工事関係
この件に関しては、甲第二九号証、原告辰巳本人の供述によつては、契約前の打合せがあつた程度のことが認められるのみで、原告会社主張のような確定した設計・監理の委託契約があつたとは認めることができず、他に右主張を認めるに足る証拠もないから、その主張の七〇万円を損害と認めることはできない。
(三) 千里駅前店舗ビル新築工事関係
この件に関しても、原告辰巳本人の供述によつては、契約前の打合せがあつた程度のことが認められるのみで、原告会社主張のような確定した設計・監理の委託契約があつたとは認めることができず、他に右主張を認めるに足る証拠もないから、その主張の一四〇万円を損害と認めることはできない。
(四) 豊中市本町五の一三五番四の土地関係
甲第七、一九、三一号証、原告辰巳本人尋問の結果によると、原告会社がこの件に関してその主張のような計画を有していたことは認められるが、本件事故の当時はまだ土地所有者から仲介人を通して話しがあつた程度で、そのような計画が確実に実行されたであろうとの原告辰巳本人の供述は、例えば、土地買受代金の融資の可能性、建物建築代金の価格、土地建物の売却価格等どれをとつても、不確実な要素の極めて大きい話しであつて、にわかに信用し難い。したがつて、その主張のような損害は、とうてい認めることができない。
(五) 西宮市神楽町二四番地の土地関係
甲第二一ないし二三号証、第二四号証の一ないし三、第二五ないし二八号証、第三二号証の一ないし九、原告辰巳本人尋問の結果によると、原告会社は、昭和六二年一〇月二三日に右土地を購入したこと、この土地上に原告辰巳の設計・監理、村本建設株式会社(以下「村本建設」という。)の施工で建物を建築し、これを他に売却する予定で、土地の現実の管理は右村本建設にさせていたこと、本件事故の前ころには、奥井興産株式会社(以下「奥井興産」という。)との間で右土地建物売却の話しが出ていたこと、事故後の昭和六三年一〇月一九日付けで奥井興産から原告会社宛ての買付証明書(甲第二六号証)が土地を現実に管理している村本建設に出されたが、村本建設では、原告辰巳が本件事故で休業しているため、地主の承諾を得られないとして、これを断つたこと、原告会社は、右土地買受けの資金として株式会社西友フアイナンスから一一億円の融資を受け、毎月六〇〇万円を超える利息を支払つていたことが認められる。
しかしながら、右買付証明書には、買付価格が一五億二八六七万円、手付金が一億五〇〇〇万円、買付期間が一か月とあるだけで、その他の条件は売主と別途協議と記載されていて、建物をいつごろまでに建てるのか、売買代金はいつ支払われることになるのか等の記載はない。そうして、仮に原告会社が主張するように、予定していた販売計画の遂行が頓挫したのが原告辰巳が本件事故に遇つたためである(そのこと自体、多分に疑問があるが。)としても、そのことによつて、どれだけの期間の利息の支払が余分に必要となつたかを判断する資料はない。まして、事故直後から平成元年六月までの二七三日分もの金利が本件事故により余分に生じたものだとする原告辰巳本人の供述などは、とうてい信用することができない。したがつて、この点に関する原告会社の主張も採用することができない。
被告が原告辰巳の休業損害として四五〇万円を支払つたことは、当事者間に争いがない(なお、治療費として六九九万二八一六円、職業付添人の付添看護料として三九八万三三五七円が支払われたことも当事者間に争いがないが、これらは、原告辰巳の請求外の損害に対する支払である。)。
八 過失相殺について
前記三認定の事実によれば、本件事故は、被告の酒気帯び、赤信号無視、速度超過により惹起されたもので、その不注意の程度は極めて重大かつ悪質といわざるをえないから、原告辰巳が制限速度を約一〇キロメートル超えていたこと、本件交差点に進入するに当たり左方道路から進入してくる車両の有無を確認した形跡がないことは、被告の右過失と対比して、過失相殺をするほどの事情と認めることはできない。
九 弁護士費用について
本件の事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としての損害は、原告辰巳につき一五〇万円、原告会社につき一〇万円とするのが相当である。
一〇 結論
以上の次第で、原告らの本訴請求は、原告辰巳につき一六九四万八七七〇円及びこれに対する事故の日である昭和六三年九月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金、原告会社につき一三〇万円及びこれに対する事故後の日である平成三年七月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 林泰民 大沼洋一 小海隆則)
別紙 <省略>